最高裁判所第三小法廷 昭和28年(れ)32号 判決 1953年10月20日
本籍
宮城県登米郡佐沼町字西佐沼八八番地
住居
東京都杉並区天沼一丁目一九八番地
会社員(休職運輸事務官)
佐藤松寿
明治四二年一二月三〇日生
本籍
福島県相馬郡中村町大字本笑一五八番地
住居
千葉県東葛飾郡流山町大字前ケ崎五九九番地
会社員(休職運輸事務官)
伊達喜祐
明治三五年六月一五日生
本籍
東京都千代田区東神田町一四番地の一
住居
同都同区麹町一番町二〇番地
印刷業
山口武夫
明治三七年三月一一日生
右被告人佐藤、伊達に対する収賄、同山口に対する贈賄各被告事件について昭和二六年六月二七日東京高等裁判所の言渡した判決に対し各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人佐藤松寿の弁護人山下卯吉及び同河村範男の上告趣意第一点について。
論旨(一)には原判決が憲法三八条二項に違反しているとの主張があるので、その点について記録を調べてみると、被告人に対し収賄被疑事件で勾引状が発布されたのは昭和二二年二月二五日、勾留状が出たのは同月二六日、保釈決定のあつたのは同年四月二二日、所論予審第一回訊問のあつたのは同月一六日である。そうして原判決は右の訊問調書中の被告人の供述記載を証拠として採用しているのであるからそれは勾引後五一日目の自白である(論旨がこれを約八〇日後の自白と言つているのは誤りである)。しかし被告人はこの時に先つて未だ身柄を拘束されなかつた昭和二二年二月三日の警察の取調において既に大体の事実を自白しており、同月二六日の勾留訊問の際にも自白しているから、身体の拘束と自白との間に因果関係が無かつた場合と云わなければならない。かような場合に憲法三八条二項の違反ありと言い得ないことは当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第二七一号同二三年六月二三日大法廷判決)の示すとおりである。故に論旨は理由がない。
論旨(一)にはまた原判決が憲法三八条三項に違反しているとの主張もなされているが、原判決は被告人の自白を唯一の証拠としてその有罪を認定したのではなく、その自白を補強するに足る多くの証拠を挙示しているのであるから、所論はその主張の前提を欠き採用することができない。その余の論旨はいずれも刑訴四〇五条にあたらない。
同第二点について。
量刑不当の主張であつて適法な上告理由とならない。
被告人伊達喜祐の弁護人外池簾治の上告趣意について。
論旨は、原判決の法令違反を前提とする事実誤認の主張であつて、刑訴四〇五条に当らない。(被告人が原判決認定のとおりの職務権限を有していたことはその挙示する証拠、就中東京鉄道局長提出の同局経理部分課規程に関する書面及び同局経理部調度課長上松義三提出の証明書等によつてこれを認めることができる。また被告人が原判決認定のような趣旨で金員を受領したことも、その挙示する証拠によつて肯認することができる。)
被告人山口武夫の弁護人江尻平八郎の上告趣意について。
論旨一及び三は事実誤認、二は法令違反、四は量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴四〇五条に当らない。
また記録を精査しても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて刑訴施行法三条の二刑訴法四〇八条により主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)